さいたま市 寿司 出前 寿司屋の言い訳

日乃出鮨雑記帳


回らない寿司屋での緊張 vs 昔ながらの町の寿司(すし)屋からの言い訳

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寿司桶の写真

 寿司屋に慣れていないお客さんが回らない寿司屋に入りずらい訳は、寿司屋の世界には仕来たりがあるから。寿司屋は、わかる人だけが入ればいい世界、部外者入っちゃいけない立ち入り禁止の世界、教えてもらわないと入れない世界だから。
寿司屋独特の言葉使いもあるし、作る側と食べる側の暗黙の了解もある。鶏と卵、慣れるのが先か、入るのが先か。慣れれば入れる、入らなければ慣れない。前門の寿司、後門の慣れ。寿司屋とはそういう世界だったんです。

 米はこめ、お茶はおちゃ、しょうがはしょうがで日本語的かつ常識的に間違いはないはず -- なのに、寿司屋に入ると普通の日本語を使っちゃいけないんじゃないか、自分が知らない慣れない言葉で注文を出さないといけないんじゃないかってきっと思ってるんでしょう、どこか緊張して落ち着かない様子です。

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 寿司屋に入った以上はカウンターに座ってみたい。なのに寿司に食べる順番があるなんて言われたら、次のネタの事考えないといけないから、今食べてるもんの味なんかわからない。ゆっくり食べられない。カウンターに座りたいのに「座りたくな〜い!」。だって魚の種類を知らないんだもの。

 こちらが、なんにしましようかって聞いてもサバとかサンマとかイワシくらいしか言えない。知らない分、店には自分の知らない魚ばかり置いてあるに違いないとお客さんは勝手に想像してしまう。だから座って一分と持たないうちに、〆られたサバのたたりなんでしょう屹度(きっと)、お客さんの目がサバに代わって寿司屋の中を泳ぎ始めます。ケースの中に見える魚がイワシでもそれがイワシだと自信を持って言えなくなってゆくのがわかります。

オーダーしそうになった金魚

 「ほか何にしましょ?」なんて不意に督促すれば、イワシ食べたいはずなのにサンマって口走ってしまうか、さっき店に入ってくるときに入り口の脇に置いてある金魚鉢見てたから、「キンギョッ!」って言っちゃうお客さんも出てきかねない。

 まわりのお客さんの耳に「キンギョ」なんて言葉が一匹丸ごと入っちゃいけないから、まだ全部言い終わらないうちに「ハイ、ハイ、キンキっすね!ちょっと今日置いてないんすよ、キンキはまたキンキン(近々)に入れときますから」って冷や汗半分、お客さんの精神状態がこちらに乗り移ったかのように、キンギョに近い言葉を思いつく限り並べ立てて素早く掻き消すようにフォローする。そもそもそんなネタないし、そんなことよりも何よりも他のお客さんにうちがキンギョを握ってるなんて噂を言いふらされたら親父(オヤジ)の代からの店は御終いです。こっちも必死です。

 更に重症なお客さんは言葉さえ出せない。体の動きもギクシャクしている。言葉が出ないから、目の前のイワシらしきものを目立たないように指差します。指差すと言うより、人差し指の第二関節を曲げて前後する感じ。勿論こちらにオーダーは通りません。手が震えたとしか見えない。どうして震えてるんだろうってちょっと思うけど、お客さんが言葉も出せず自由に身動き出来なくなってるなんて、面倒だから考えません。

(3)

 これだけではありません

 今日は回らない寿司屋で旨いアナゴの握りをタラフク食いたいな〜と思っても、見つけた江戸前寿司屋で最初っから水一杯とアナゴ握り4個って言えない。行儀を知らないと馬鹿にされそうだから、そんなこと言えない。だったらその寿司屋に入るの止めて、どうせ一人だし回る寿司屋がちょっと先にあるからそこにでも食いに行くかっ、てことになる。回る寿司なら誰にも遠慮せず、誰にも気に留められることなく、アナゴだけを何皿も食べて平気で出て来られる。みんな同じ思いだから。

アナゴ握りの写真 アナゴ握りの写真 アナゴ握りの写真 アナゴ握りの写真

 つまり、食いたいものを自分が食いたい順に食えないってことは、懐石料理と同じ。味噌汁と御飯が最初に出てきたら変でしょ?懐石のコースお替りなんて聞かないでしょう?寿司屋と懐石料理屋は同じだったんです。アナゴ四個って言うに言えない。

(4)

  こうやって寿司屋では、慣れないお客さんはどんどん目の前の板前に引け目を感じてゆきます。寿司を味わう余裕なんてとてもお持ちになれないはず。結局、寿司屋は落ち着かない。勘定払ってまでどうしてこんな思いしないといけないんだってことになる。慣れた人以外は寿司屋を避けたくなるのが当たり前なんです。

(5)

 都合のいい話ですが、日乃出鮨はこれまでの一切の面倒な仕来たりで、お客様の来店を邪魔されたくないです。

 アナゴ4個でも5個でも一括オーダーしてください。ご年配の方なら、握り三つ四つしか召し上がれないこともあるでしょう。そんな時日乃出鮨に寄って下さい。一つが大きすぎるなら小さく切って2つにでも3つにでもします。よんかけるさんなら、12個も召し上がれるじゃありませんか。

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 もう一つ仕来たりがありました、これも忘れてください ---- 手で食べる仕来たり。 この仕来たりにも日乃出鮨は邪魔されたくないです。

握り寿司を箸でつまむ写真

 健康、健康、健康、・・・・ 衛生、衛生、衛生、・・・・一年一年、年と共に健康と衛生に世間は敏感になってます。食事の前に手を綺麗に洗うこと、外出から帰って手を洗うこと、冬になれば、なんでもないのに手のアルコール消毒を国が奨励し、場所によっては義務化されている今。こんな時代に、寿司だけは手で食べるものって言われたって、板前や慣れたお客さんは別として、そのままそっくり納得できない人も沢山いるでしょう。
日乃出鮨では、本場がどうのとか、仕来たりがどうのとか、通ならどうのとかは忘れちゃってください。そんなこと絶対考えないで下さい。そんなこと考えられると町の寿司(すし)屋はつぶれちゃいます。箸と指、自分はこっちと思う方でいいんです。食べたいものを食べたいように食べてください。箸でも棒でも何でも使って食べて下さい。

 日乃出鮨は、寿司屋に通っていないお客さんに先ず入って来てもらいたい寿司屋なんです。